「山賊ダイアリー」岡本健太郎
「山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記」岡本健太郎 [wiki]
既刊4巻読了。現在も連載中。
「山賊」とついているが、本来の意味の山賊(旅人を襲うとか)ではない。「猟師」のエッセイ漫画である。(デート相手に「さようなら山賊さん」と振られたのが由来だろうか?)
作者は今時の若者で、空気銃(ポピュラーな散弾銃より威力は弱いが、これはこれで魅力があるらしい)と罠(主にイノシシを狙う)を2009年に扱い始めたばかりの初心者猟師である。(主な収入がなんなのかよくわからないが)
人によって評価は大きく分かれる作品であろう。やはり男子としては猟というのはなんだかワクワクするから超面白い! とか、女性だと興味が全然湧かなかったりとか、絵がそんなに精緻ではないのでそこがマイナスポイントとか。
ネット上ではデイリーポータルZというサイトにて平坂 寛さんというライターのかたがいろんな物を捕って食べている。(一覧)
それらの記事が元々好きだった私は、ちょっとテイストの似たこの山賊ダイアリーも一発で気に入ってしまった。
他に猟師のサイトなんかもあるが、参考:ちはるの森
解体の様子が生々しく写真になっているとさすがに引いてしまう。漫画で表現されているとちょうどいい。
絵柄は前述の通り細密ではなく「軽い」感じである。良く言えばかわい気のある絵柄・表現。イノシシの反撃に腰が抜けてしまって、「転がって逃げました」のところなんかは、あまりに簡便な絵で逆に微笑んでしまった。
この世界が未知の読者のために、話は非常に丁寧に描かれている。語り口もですます調で優しい。
1巻では免許の取り方なども詳しく説明しているし、猟の内容から、捕れた後どう食べるか? の結末の部分まで。読んでいると無性に肉が食べたくなってくる!
狩猟期間は(執筆時点で)11月~2月。この間は漫画の掲載もほとんど休むらしい。
それもあって刊行ペースが遅いのが残念。4巻が冬に出たのに、5巻は次の秋刊行ですって。
「百姓貴族」荒川弘
「百姓貴族」荒川弘 [wiki]
2巻まで読了。連載中。(3巻はこの執筆の数日後に発売)
『母親に「これ読んでみ」と渡すならどの漫画か?』私的ランキング1位。(次点は毎日かあさん)
バトルだとか物騒な刺激性が全くないのに、ものすごく面白いから。
この漫画はエッセイに属する。牛を擬人化した姿で登場する作者荒川弘(とその家族たち)が、家業である「北海道での農家」(酪農と畑作)ネタを繰り出す。当然、同業者以外に属する大部分の読者にとっては新鮮なネタばかり。
おそらくどんな絵柄でも描き分けられるかたであるが、この作品の場合は簡素にして十分。その中にギャグを織り込むタイミングは抜群の緩急。『誰かこの親父をハリウッドへ連れて行け!!』レベルのお父様が特にいいキャラ。
その中に厳しい現実や理不尽さをそっと織り込んでもあるのだが、描き方が上手いのでスッと頭に入ってくる。
『なんでも残さず食べます!!』と叫ぶ作中キャラのように、自分自身の食育にもなる。
いやあとにかく全エピソード面白いですよ。連載のページ数が少ないので刊行ペースが2~3年に1冊なのが残念。
「YAWARA!」浦沢直樹
「YAWARA!」浦沢直樹 [wiki]
1986年から1993年まで好評連載された。今や古典ですな。単行本全29巻。(ちなみに外伝「JIGORO!」も買って読みましたよ)
スポーツ漫画では「添え物」だった女性が主役を張ることは、当時とても斬新であった。
作者はこの作品を、明確な「ヒットするための計算」をもって描いたという。
何がそんなに読者を惹きつけたのか考えてみよう。
柔ちゃんは柔道の英才教育を受け、ものすごく強い。しかし中身も外見も「普通の女の子」で、強さなどには全く価値を見い出せず、そのギャップに悩んでいる。
スポーツ物と言えば、主人公がどんどん実力をつけて成長してゆく事に読者は快感を覚えるものだ。しかし、柔ちゃんは1巻から「ほぼ世界一強い」。
ではその代わりに読者を引っ張った理由とは?
『柔ちゃんは、いつになったら本気を出してくれるのだろう!?』
そんな興味である。
この作品は全巻を読み通した時、「柔ちゃんの本気度」が、綺麗な上昇グラフを描いているのだ。そのために祖父のジゴローさんが様々な計略を巡らしたり、事件が起こったりする。その度に読者はヤキモキしてはスッとする。その繰り返しである。ここが本当にウマいなあと思う。
別の視点から見ればラブコメにも仕立てられているのだが、それは「柔道はやりたくない」という葛藤の成分でしかない。
実力の成長で言えば富士子さんのほうがよっぽどスポーツ物っぽい。初心者から相当の実力者まで、こちらは王道の上昇グラフである。ついでに恋愛もするし、第2の主人公と言ってもいい。
いわゆる「姫川亜弓ポジション」にさやかさんを配しているのも王道戦略の一貫であろうが、そこは主人公の性質上、空回りさせることでコメディ要素に転化している。
かくしてこの作品は、王道パターンを綺麗に反転させた面白さを持つ、斬新な名作となったのだ。
「銀の匙 Silver Spoon」荒川弘
「銀の匙 Silver Spoon」荒川弘 [wiki]
現在連載中。既刊10巻読了。今後も追いかけます。
「鋼の練金術師」で大成功した後、別の出版社で全く色の違う連載を開始。
雷句誠先生、佐藤秀峰先生の問題で、私の小学館のイメージはえらく落ちていた。
なのに何故そこへ行こうとするのか? それは次に描きたい漫画が少年サンデーの「雑誌の色」に一番合っていたからのようである。
移籍した途端、単行本は一冊あたり100万部、どこかで数字を見たがいきなり「小学館で一番単行本を売る作家」に躍り出た。(逆に言えば、他の作家はそんなに売れていないということ)
さて題材は「農業高校」である。作者自身の経験が生かされているという。これをパッと読んだ時、「前作よりヌルいなぁ……」と感じてしまうことは避け難い。アクションもなく、派手な大事件も何も起こらないのである。
しかし! 何故かこれがジワジワと来るのだ。面白いか面白くないかと言えば、間違いなく面白い。
ハガレンは全巻を「2周」読めば、あとはもういいかな、という感じがあった。そこがアクション主体の限界なのかもしれない。それに対しこの作品は、何周読んでもジワーっと楽しめる。でも何処にそんな魅力があるかというと、なかなか自己分析できない不思議さ。
とにかくこの作者には根本的な「漫画の力」があって、何でも面白く描けてしまうんだろうな、という観念的な結論しか出てこない。
(漫画の力=絵の巧さとか、ネームの緩急とか、キャラクター造形とか)
普通の中学校から急に農業高校へ進んだ主人公は、農業高校の特殊さに一つ一つ触れ、リアクションする。それはつまり「読者と同じ立場」であり、いちいち新鮮さを感じることができる。
そして、主人公の人生観が、ものすごくゆっくりとしたスピードではあるが変わってゆく。それが話の縦筋となっている。
「鋼の錬金術師」荒川弘
「鋼の錬金術師」荒川弘 [wiki]
全27巻読了。
85%の王道(読み易い絵柄・格好良いアクション・絶妙な脇役キャラクター配置)
を貫く勇気と実力に、
15%のスパイス(錬金術・グロさ・巧みなプロット)
を見事調合した快作。
錬金術をメインの「ネタ」として据え、地面を拳の形に変えたりしてバトルする。主人公2人の行動の理由は術の失敗から始まるごく個人的なものだが、やがて広大な国に対しての錬金術に巻き込まれてゆく。
敵キャラの元ネタは「7つの大罪」。(某マンガより先)
1冊あたり200万部と、しっかり報われているが、
作者はONE PIECEに部数で届いていないことについて意識している。
1巻と最終巻でほとんど絵柄が変化していないのも凄い。漫画家として最初から完成度が高かったという事。
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