「YAWARA!」浦沢直樹
「YAWARA!」浦沢直樹 [wiki]
1986年から1993年まで好評連載された。今や古典ですな。単行本全29巻。(ちなみに外伝「JIGORO!」も買って読みましたよ)
スポーツ漫画では「添え物」だった女性が主役を張ることは、当時とても斬新であった。
作者はこの作品を、明確な「ヒットするための計算」をもって描いたという。
何がそんなに読者を惹きつけたのか考えてみよう。
柔ちゃんは柔道の英才教育を受け、ものすごく強い。しかし中身も外見も「普通の女の子」で、強さなどには全く価値を見い出せず、そのギャップに悩んでいる。
スポーツ物と言えば、主人公がどんどん実力をつけて成長してゆく事に読者は快感を覚えるものだ。しかし、柔ちゃんは1巻から「ほぼ世界一強い」。
ではその代わりに読者を引っ張った理由とは?
『柔ちゃんは、いつになったら本気を出してくれるのだろう!?』
そんな興味である。
この作品は全巻を読み通した時、「柔ちゃんの本気度」が、綺麗な上昇グラフを描いているのだ。そのために祖父のジゴローさんが様々な計略を巡らしたり、事件が起こったりする。その度に読者はヤキモキしてはスッとする。その繰り返しである。ここが本当にウマいなあと思う。
別の視点から見ればラブコメにも仕立てられているのだが、それは「柔道はやりたくない」という葛藤の成分でしかない。
実力の成長で言えば富士子さんのほうがよっぽどスポーツ物っぽい。初心者から相当の実力者まで、こちらは王道の上昇グラフである。ついでに恋愛もするし、第2の主人公と言ってもいい。
いわゆる「姫川亜弓ポジション」にさやかさんを配しているのも王道戦略の一貫であろうが、そこは主人公の性質上、空回りさせることでコメディ要素に転化している。
かくしてこの作品は、王道パターンを綺麗に反転させた面白さを持つ、斬新な名作となったのだ。
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